Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “晩夏のしっぽ”
 


   終章 …というか おまけというか



もしかしたらば、妙に話し込んでたこちらだったのへ、
殺気も薄い、注意も逸れてると読み、
隙を衝いたつもりで
奇襲を掛けて来た“最後の一片”くんだったのかも知れない。
陰体だから大きさはどうとでもなる上、
結構な精気を抱えて逃げたので、
ヒグマほどにも巨躯を膨らませての、
威嚇も申し分ない恐ろしさをまとえていたはず…

  とはいうものの

注意が逸れていたれば逸れてたなりの、
盛り上がりどころへ水を差しちゃった格好になったのが
今回 非常に不味かったようで。

 『…………覚悟はいいか。』

陰に籠もって物凄い、
地響きを伴っていそうなほどの重低音で。
妖異にとっての最期の引導渡しつつ、
切っ先鋭い精霊刀を構えた式神に
刀の攻撃範囲以上の空間を殺気で満たされて退路を断たれ。
しかもその上、

 『ようもこの間合いへ飛び出して来れたなぁ、お前。』

自分が放った呪詞の反転のせいで、
ほんの幼子という体躯風貌になってしまっている身の上。
いくら山ほどの咒術を修めていた陰陽師であれ、
そんな身では大したことは出来まいと
勝手に踏んでいたなんて大きな誤り。
なんで この2日の間にそこを読み取れなんだ、あんたと、
呆れを通り越し、いっそ同情したくなったほど。

  きしゃあっ、という

禍々しくもおぞましい奇声と共に現れた威勢が、
あっと言う間に呑まれて滅び、逆に大きく圧倒されたは、
得体の知れない怨嗟や恐ろしさや何やを垂れ込めさせた、
冷え冷えした闘気がその場へ満ち満ちたせい。

 《 ……っ!》

まだ夕暮れには間があるはずで、
ここまで寒々とした風は吹いていなかったような。
何より、人の和子がまとえる妖気の桁じゃあないぞこれと、
本能的なところで慄いたころには時すでに遅く。

 『因果封滅っ!』

ひゅんっと宙を滑空して来た一陣の刃が、
影さえ動けぬ鋭さで飛び掛かり、
巨体の端っこ、核を違えなく貫いており。
咒弊を深々と打ち込んでいるのは、
両端が鋭い刃先となった独鈷という武具によるもの。
切っ先が食い入る作用以上に、
そこから滲み出す思念が相手の身へと深々食い入り。

 《 かひぃいっ、しゃあぁっっ!!》

うろたえるような唸り声へ、その身を蝕む咒の作用が発動し。
やっと訪れんとしていた黄昏の、
金色の暮色の中に、その身がほろほろ崩れ去り。
さわっと、吹き抜けた風の中へ居残ったのは、
坊やとなった術師が投じた、独鈷つきの弊が一枚だけだった。

  そして

そうやって全てが集まった邪妖の封弊を引っ提げて、
大元の封印を成した場所、
季節外れの桜咲く、裏山の中腹の広っぱへと向かった彼らは、
最初の封印咒を無事に補完成就とさせたらしく。

 「………あ。」

お留守番を言い渡されたがそれでも、
落ち着くことなぞ そうそう出来ぬまま。
そわそわが嵩じての気がつけば、
屋敷の門口まで出て来て待ち受けていた書生の瀬那くんが。
主よと進さんに示された先、
夕日を背負って戻っておいでの二人連れ、
双方共にすっかり同じほどの背丈の影なのを安堵で見つけて、

 「お帰りなさいましっ!」

我慢もたまらず駆け寄ったのが、
お話としての大団円ではありましたが。




     ◇◇◇



地中から咒で掘り出した格好の
封印岩へと張り付いた弊は、やはり半分に裂かれたまま。
それへと向けて、
少し大ぶりの独鈷で突き通し、束ねたまんまという扱いで、
小さなお手々がばっさと叩きつけたのが、
この数日掛けて集めた、残りの小者らを封じた弊であり。

 「さあ、残りの連中と一緒に葬ってやろうよな。」

可憐な仕立ての水干をまとった、十にも満たぬ少年の姿でありながら。
口唇の片側を引き上げた、勝ち誇ったような笑みの
何とも凄まじくも迫力満々だったことか。
愛らしかった目元を伏し、
お顔の前へと真っ直ぐかざされた平手の陰で、
低く紡がれたは今度こその封隠滅咒。
同族同士で間近になったことが刺激になったか、
一瞬、何かしらの気配がどんと盛り上がったものの。
それら禍々しい気配はあっと言う間に氷結し、

 「邪妖滅殺、封印綬咒完っ。」

小さな両手が合わされたその狭間から、
周囲の樹木や石ころ、茂みに下生え、
風や物音、大地に空までもを真っ白に覆い尽くすほどの、
質量を帯びているかのような強い閃光がほとばしる。
念じる気迫の強さが膨らみ、
それに煽られるように閃光も強さを増してゆき。

  光の強さに陰が滅んで、
  物の輪郭たちも完全に消えたのも、
  だが 一瞬のことで。

文字通り 音もない咒撃による急襲に圧倒された世界だが、
それがするすると退いた後には、
垂れ込めていた気勢も去って、嘘のような静寂が佇むばかりで。

 「ほれ。」
 「お?」

小さくなった身には丁度よかったそれが、
育った身丈には小さすぎる衣紋。
あちこち きゅうと締まってしまう前にということか。
愛らしかった水干と入れ替わるように
その身へかざされたのが大人向けの小袖と袴。
突然現れたそのまま、
まだ小さかった術師殿の総身へくるんと巻きつくと。
ぽんっと空気が弾けるような音ともに、
まずは水干の方が宙へと舞って。
続いてその場に現れた、しっかとした体躯の青年術師の、
その身へまとわれていたのが、藤色の小袖と濃紺の袴という一式。
ご当人にも何がどうしてという感触は、微塵も判らなんだらしい早業へ、

 「便利なもんだろー。」

目元を細め、口許たわめ、
いかにもしてやったりと にんまり笑った蜥蜴の総帥殿。
ちょっと前にはややこしい感傷に翻弄されていたのが嘘のような、
あっけらかんとした したり顔だったのへ。
蛭魔が おやまあと呆れたのも束の間のこと。

 「便利なものだが、一つ 気に要らんな。」

両方の袖口をそれぞれの指先で手のひらへと押さえ、
小袖や装いごと、
自分の身をつくづくと見下ろして確かめていた蛭魔が評したのは、
出してもらった着物への見解ではなくて。

 「お前、他でもこうして人から衣紋を毟り取っていまいな。」
 「…おいおい。」

言うにこと欠いてなんだそりゃあと、
たちまち、男臭いお顔が渋く引きつったのへこそ、
満足そうに目許たわめて、笑い返した金髪金眸の陰陽の術師であり。

 “焦らなんだということは、身に覚えがない証しかの?”

何も追いはぎを疑った訳じゃあないのだがと、
こそりと胸のうちにて呟いたのは
誰にも言うつもりはない内緒ごとだったけれど。

 「さあ、帰るぞ。」
 「おうさ、ちびさんが首を長くして待ってようからな。」

  それと、くうも引き取りに行かにゃあな。

  あああ〜〜っ。
  そうだった、あんの野郎めがどさくさに紛れてよぉっ!

相変わらずのやりとりを交わしつつ、
並んで戻る我が家への道。
頬や髪をなぶる風に清かな涼しさ感じたけれど、
それが寂しいにつながらぬ、
気持ちの張りをくれるは家人と灯火。
それらが待つ家へ向かう彼らの足取りは、
背中だけ見ていてもそりゃあ軽やかに楽しげなものだから。
クヌギもスズカケも引き留めはせずの、そおと梢を振っただけ…。







   〜Fine〜  12.09.23.〜09.30.


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  *終幕の手前で間を置いた割に、
   あっけらかんと終わってすいません。
   もったいぶって思わせ振りをしたんじゃなくて、
   ちょっと家の中がバタバタしたもんで。
   いやもう、劇的要素は目一杯盛り込んだしということで。
   後日談として何か書き足すかも知れませんが、
   騒ぎ自体はこれで終しまい。
   相変わらずのどたばたへ、
   お付き合い下さりありがとうございました。

   子供の姿にされちゃったが、咒力は変わらないというお師匠様。
   とはいえ、周囲が先に恐慌状態に陥ったので、
   うろたえる隙もなかったらしいです。
   仲間っていいなぁvv(違うぞ、多分。)


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

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